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2018年12月18日

【極み職人 vol.14】琵琶の悠久の調べを現代に咀嚼して伝える匠

原武(さくらもち制作部)

原武(さくらもち制作部)

毎月芸術的な職人技とその人柄に迫るこのコーナー『極み職人』。

私たちの身近には、職人ならではのこだわり、極めた技、その背景にある魅力的な人柄をお持ちの方が多くいらっしゃいます。

そんな方々をご紹介し、職人としての想いに触れることで、新たな発見、刺激や気づきになるコーナーになれたら嬉しいです。

 

今回ご紹介させていただく職人さんはこの方!

 

 

 

伝統芸能に直接触れる機会が少ない現代。その分野に趣味を持つ人でなければ、あえて見聞きする機会を作ることもない。しかし、能・狂言、浄瑠璃などその存在は誰もが知るものだ。
 福岡にもそんな伝統芸能を支える楽器、琵琶がある。シルクロードを経て日本にやって来た琵琶は、日本で独自の進化を遂げた。「筑前琵琶」は、明治時代に福岡の地で新しい琵琶音楽として生まれたものだ。
 若き筑前琵琶演奏家の尾方蝶嘉さんは、その演奏を通じて子供たちの未来を育む達人だった。

 

 

音に魅せられた出会い

「恋に落ちるのに理由はいらない、みたいなものです」。琵琶の音色に魅了された出会いを蝶嘉さんはそう笑った。
 中学一年生の時に同級生の一人がみんなの前で聞かせてくれた琵琶の演奏。その時の心のざわつきにびっくりしたという蝶嘉さんは、翌年には、自身も琵琶を習い始めることになる。
 伝統芸能の家に育ったわけではなかったが、物を大事に使う祖母や大阪での幼少時に京都や奈良に連れていってくれた父の影響か、古いものの雰囲気が好きだったという蝶嘉さん。子供の頃から流行を追い回すよりは、普遍的なものに憧れを感じていた。
 大学卒業後に一旦、法律事務所に務めたものの、自分を見つめ直し琵琶奏者へと転身した。

 

 

博多生まれの楽器

明治中期、「盲僧琵琶」からの流れで福岡に誕生した「筑前琵琶」は、一般大衆芸能として広がり、明治後半に隆盛期を迎える。
 筑前琵琶はその名を全国に知らしめ、東京、大阪、福岡を中心に「お師匠さんだけで六千人いた」そうだ。「嫁入り前の娘なら琵琶の一つも弾けないと」と言われていたほどらしい。
 構造はいたってシンプルな楽器だが、特に筑前琵琶は手入れさえ怠らなければ代々使える優れた工芸品でもあるという。しかし、その伝統を受け継ぐ工房は福岡市内にはすでに存在せず、全国的にもその職人の数は少ない。
 「博物館に飾られるようなことにはなって欲しくないから」と、琵琶演奏を続ける意味を蝶嘉さんは話し始めてくれた。

 

 

琵琶演奏の魅力

十代後半から、演奏で様々な場所に行った。普通の学生では出会えない人たちと出会い、神社仏閣でも一般には入れないところに入れたのが貴重で興味深い経験となった。「琵琶をやっていたおかげでいろんな自分の扉を開け、人との出会いで人生の範囲が広がった」と演奏を続けられた要因を振り返える。
 もちろん、続ける意味を見出せずに悩み続けた日々もあった。しかし、ある日の演奏会後に老婦人が言ってくれた一言が、蝶嘉さんんの迷いを断ち切った。「今日はいいものを聴かせてもらった、生きてて良かった」。人様に喜んでもらうことがこんなにもエネルギーになるとは。
 シンプルな楽器だからこそ、演奏者の個性が出るし、一生追求し続けられるほど奥行きが深い。自分なりの世界を創作して、琵琶の音に乗せて語り、歌う。また、それを聞いてくださる方と物語の世界観を共有できるところが面白味だと蝶嘉さんは言う。

 

 

ライフワーク

小学校でも授業の一環で演奏をする中、蝶嘉さん自身も子供を持ってから特に考えるようになったことがある。琵琶演奏に限らず、芸事が安心して楽しめる社会を子供たちに残すことが、私たち大人のすべきことだと。
 琵琶の内容は、神話から近現代の歴史物、地域の物語など多岐にわたってその題材としている。そこから現代の私たちが人生の指針とすべく学ぶべきことも多い。
 例えば、平家物語の時代から人々の争いは絶えない。しかし、そこから先人たちが得た教訓を次世代の子供たちにつなぎ、残していくこと、それが伝統芸能をやっている者の責務の一つだと蝶嘉さんは考えている。
 そのためにと、彼女なりに取り組んでいることがある。唐津街道の地域や宿場町それぞれにある物語を琵琶弾き語りでやる掘り起こしだ。「福岡を東西につなぐ街道の物語の掘り起こしが、ライフワークの一つなんです」。今回の会場、箱嶋家住宅がその拠点になればと蝶嘉さんは言う。
 
 決して古いものに固執しない筑前琵琶の演奏家、尾方蝶嘉さんは、古の人と現代の人を結ぶ伝統の継承をきっと成し遂げてくれるだろう。

 

 

撮影場所のご案内

国登録有形文化財 箱嶋家(はこしまけ)住宅

築145年を超える江戸後期の建築様式を今に伝える箱嶋家住宅。福岡市内では唯一一般公開されている国登録有形文化財の建造物です。

〒812-0054 福岡市東区馬出2丁目21-27

TEL:092-651-1062 

 

今月の極み職人

筑前琵琶演奏家 尾方蝶嘉(おがたちょっか)さんからのメッセージ

まずは琵琶の音を聴いてください。カフェなどでの気軽な演奏のご依頼もお待ちしています!

WEB→http://biwa-cyoka.jimdo.com

 

原武(さくらもち制作部)

この記事を書いた人

原武(さくらもち制作部)

さくらの森の会報誌「さくらもち」の企画編集、執筆、写真を担当。

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